5/2(水) 11:00
アレックスの未来を考察するU
彼自身に決定を急ぐつもりはなくすべての噂は仮説にすぎない
では、ユーヴェを離れたデル・ピエロはどこに行くのか?
その問いに明確に答えることはできない。噂は数多く出ているが、それらは今のところすべて仮説で、確かな情報は一つも出ていない。
たくさんある仮説を一つずつ検証していこう。まず、デル・ピエロがイタリアの他のチームに移籍する可能性は低い。例えばミラン、インテルといったビッグクラブでプレーすることは、ユーヴェやユヴェンティーニとの関係を考慮するとまず考えられない。逆に、ミランやインテルとしても、長年ユーヴェのシンボルだった選手を迎え入れることには抵抗があるだろう。
では、プロヴィンチャのクラブに骨を埋めるというプランはどうだろうか。彼には家族があり、子供はまだ小さい。生活の場を国外に移すことに抵抗を感じた場合には、国内の小さなクラブで静かにプレーし、自らの経験を若い選手に伝えようとするかもしれない。この場合、年俸は障害にはならないだろう。デル・ピエロはカルチョ・スキャンダル以後のユーヴェで契約更新のたびに年俸ダウンに応じている。現在の年俸は100万ユーロ前後(約1億円)と見られている。アレックス自身がユーヴェに申し出るという形で決まったこの金額は、プロヴィンチャのクラブでも“背伸び”をすれば払える範囲にある。それでも、実現の可能性は低い。常にイタリアサッカー界のトップに立ち、ビッグタイトルを目指して戦ってきた男の選択としては、やはり考えづらいのだ。
そうなると、選択肢は国外移籍ということになる。すでに多くの仮説が飛び交っているが、ここで我々はもう一度、大きな前提に立ち返る必要があるだろう。それは、「デル・ピエロ自身に決定を急ぐつもりは全くない」ということ。
今の彼が考える唯一のことは、残りのシーズンをいかに集中して戦うか。「プレー以外のことは考えたくない」というのが正直な思いだろう。
マネージャーである実兄のステーファノ・デル・ピエロは、弟のこんな発言を私に明かしてくれた。
「オファーについては聞いておいてくれればいい。ただ、どんなオファーであっても、今は明確な回答をすることはない。大丈夫、時期が来ればちゃんと結論を出すから」と。真のプロフェッショナルらしい対処の仕方である。
プレーの場を求めてイタリアを離れるとしても、選ぶべき道は2つある。チャンピオンズリーグに参加するほどのクラブに移籍し、まだまだ第一線で活躍できると証明する道。あるいはサッカー以外の側面で人生を充実させようとする道、端的に言えば、技術的にやや劣る国外リーグを選ぶことである。
前者の可能性を考えた場合、今のところ、2つのクラブがデル・ピエロに少なからず興味を抱き、獲得への準備を始めたという噂がある。プレミアリーグのアーセナルとリーグ・アンのパリ・サン・ジェルマンだ。
私自身の感覚では、「大いにあり得る」と言える。アーセナルは過渡期にある。ベテランから若手への切り替えを図る中で、ガナーズのフロントは若手のカリスマになり得る人材として、デル・ピエロをピックアップしたようだ。彼らは今年、ティエリ・アンリの期間限定復帰により、経験豊富なリーダーがいかに若手の成長に有効かを実感している。正式なオファーともにその役割を説明されたら、日頃はクールなデル・ピエロも意気に感じるに違いない。
レオナルドがGMを務めるパリ・サンジェルマンもデル・ピエロの獲得に興味を持っているようだ。監督を務めるカルロ・アンチェロッティは、デル・ピエロのユーヴェ時代の監督であり、1998年、ひざに大ケガを負い満足な活躍ができなかった時期にも彼を公私ともに支え続けた恩師である。その存在はデル・ピエロにとって決して小さなものではない。現在のパリ・サンジェルマンは豊富なアラブマネーを武器に、欧州のエリートチームへの仲間入りを果たそうとしているところで、引退後も含めた“今後”を考えた場合、デル・ピエロにとって決して悪い職場ではない。
■ヨーロッパ以外ならアメリカ
□日本を選ぶことは「まずない」
ただ、もしデル・ピエロがもう一つの可能性、いわゆるヨーロッパ以外のリーグを選ぶとするなら、その候補地の筆頭はアメリカとなる。
イタリアでのデル・ピエロはプライバシーを尊重してもらえず、私生活で多くの制約を受けている。アメリカなら、家族と街を自由に歩くことも、旅行を楽しむことも可能だろう。実際、デル・ピエロはシーズンオフの休暇をアメリカで過ごすことが多い。その理由は「普通の人間としての時間を満喫できるから」だそうだ。
移籍先の有力候補は、ロサンゼルスに本拠を置くLAギャラクシーだが、プライベートを重視した結果としてアメリカでのプレーを選択するのであれば、その舞台は彼がこよなく愛する街、ニューヨークになるかもしれない。ニューヨークを本拠地とするレッドブルズの線は捨てきれない。また、カナダのモントリオール・インパクトはすでに具体的なオファーを出した模様。なぜモントリオールかと思うだろうが、この街は大きなイタリアン・コミュニティがあることで有名。つまり、イタリアにルーツを持つ人々が数多く住んでいるということだ。実際、インパクトのクラブ創設に尽力したのもイタリア系住民だった。もしデル・ピエロがこのクラブでプレーすることを決めたら、ファンから神のように迎えられるだろう。
残る仮説はあと2つ。アラブマネーで潤う中東と、この原稿の読者の大多数が住んでいる日本だ。ただ、この2つについては、イングランド、フランス、アメリカへの移籍に比べ、可能性が低いと言わざるを得ない。
まず中東への移籍として最も考えられるのは、ルーカ・トーニが所属し、ヴァルテル・ゼンガが監督を務めるアル・ナスルだ。サウジアラビアとその周辺のアラブ諸国は、かつてセリエAあるいは国際舞台で活躍した名選手の“最後の仕事場”とも呼ぶべき存在になっている。
潤沢なオイルマネーがあることに加え、カタールでの2022年ワールドカップ開催決定によりサッカー熱が高まっており、かつてのビッグネームを集める要素が揃っている。先日は、あのディエゴ・マラドーナのアル・ワスルの監督就任が決まった。可能性は低いとしても、移籍先として全くないとは言いきれない。
最後の移籍候補、それは日本である。ただ、デル・ピエロがその選択肢を選ぶ確率は限りなくゼロに近いだろう。日本はアレックスのファンが特に多い国として知られる。一昨シーズンにユーヴェを指揮したアルベルト・ザッケローニが代表監督を務めるなど、イタリアと日本のサッカー交流が再び深まっているのも事実。デル・ピエロ自身も、常に多くのファンがいる日本のことを気にかけており、昨年の大震災の後には自らチャリティー活動に奔走し、被災者に義援金と激励のメッセージを送っている。
もっとも、日本のサッカーファンには申し訳ないが、デル・ピエロがJリーグでのプレーに興味を持つとは思えない。イタリアから遠く、文化や言語も大きく異なるため、家族を連れて行くことにも躊躇するだろう。あと数年先、日本での暮らしを体験することを主目的としてJリーグのチームに籍を置くことはあるかもしれないが、この夏に移籍先を日本に選ぶ可能性は「まずない」と考えるより他にない。
印象としては、おそらくアメリカを選ぶのではないかと思う。ロサンゼルスもしくはニューヨークに彼の未来があると考えるのが、あらゆる意味で一番自然なのだ。もっとも、優先順位として最も上に来るのは、イタリア以外の欧州の強豪チームだ。先日のミラン、インテル相手のゴールは、デル・ピエロがまだ十分な実力を備えていることの証明となった。彼のモチベーションに火を点けるようなオファーが届けば、「アメリカでの自由な暮らし」という夢の実現は数年先伸ばしになるだろう。また、私も友人の一人として、そうなることを願っている。
ミラン、インテルから立て続けにゴールを奪ったことで、デル・ピエロの周辺はにわかに騒がしくなり始めた。かつてのチームメート、アレッシオ・タッキナルディは言う。
「アレは、味方からいいボールさえ来れば、それをまだゴールに確実に流し込める選手であることを証明した」と今回の2ゴールを称賛し、ユーヴェ首脳陣の翻意に期待を寄せる。
ナポリのアウレリオ・デ・ラウレンティス会長は「彼の礼儀正しさ、クラブへの忠誠心には感服している。ナポリにはいつでも、彼のポストがある」と意味深なコメントを残している。
しかし、繰り返しになるが、デル・ピエロが国内に残るとは思えない。デル・ピエロの未来は、イタリア以外のヨーロッパの強豪クラブ、あるいはアメリカにしかないように思える。
ナポリのティフォージはイタリアで最も熱く、国内どこのスタジアムにも大挙して応援にやって来る。来たるコッパイタリア決勝のように、彼らにとって久々となる戴冠のチャンスとなればなおさらだ。だが、今回ばかりはユヴェンティーニも負けてはいられない。5月20日、アレッサンドロ・デル・ピエロは白と黒のユニフォームを脱ぐ。その後、どんな未来が待っているのだろうか。それは誰にも分からない。そう、アレックス本人にさえも。
(記事提供:CALCiO2002)