5/30(水) 12:00
コスタクルタが語る黄金の7人の知られざる素顔
アレッサンドロ・“ビリー”・コスタクルタと言えば、かつてフランコ・バレージ、パオロ・マルディーニとディフェンスラインを形成し、ミランの黄金期を築いた選手であ
る。
しかし2007年まで現役でプレーしていた彼は、まだ現役としてプレーする選手との繋がりも強い。現在は辛口解説者として活躍するビリーは“黄金の7人”すべてとプレーした経験を持つ。
また、親しみやすくストレートな性格で、全員と個人的な関係を築いている。
今回取り上げた“黄金の7人”を語らせるには、うってつけの人物と言えるだろう。
■ガットゥーゾ

ミラン加入の99年夏からビリー引退までの8年間、チームメートだった。両者とも“新人の教育係”を務めた。
《周囲の環境に刺激を受けメキメキと成長した》
リーノの第一印象はよく覚えているよ。ミラネッロでの初めての練習を見た時、俺は思わずこんなセリフを口に出してしまった。「こいつ、大丈夫か?」とね。つまり、「これではミランで通用するはずがない」という戸惑いだ。あの時のリーノは20歳そこそこで、将来有望な若手の一人という位置づけでもなかったから、即戦力でなくても驚きはしない。実際、ミラネッロには毎年、「ミランを肌で触れて、また別のどこかに行く」という若者が多くいた。だが、あいつはどこが有望なのか分からなかった、というのが正直なところさ(笑)。
だけど、数週間後にはチームメート全員から認められていたのだから驚きだよ。「勝利のために」という意思は誰よりも強かった。ただガッツがあるだけじゃない。周囲のアドバイスを聞いて、一生懸命に練習する。どんな才能よりも大事な要素を持っていた。あいつがそれまでいたクラブとミランじゃ、当然ながらレベルが違う。周囲の環境に刺激を受けて、あいつはメキメキと成長していった。
あれから十数年が経過した今も、その姿勢は変わらない。今シーズンは視力障害というイレギュラーな形での戦線離脱を強いられたけど、あいつはいつもと変わらない、いや、試合がない分をプラスした練習量をこなしていた。あの精神力には頭が下がるよ。
■ネスタ

右サイドとセンターでコンビを組む機会が多かった2人。ネスタの加入を機にビリーは控えに回ったと言える。
《少し内向的なだけで素晴らしいヤツだ》
最高のDFだ。「世界ナンバーワンのセンターバック」という地位を何年キープしていたんだろう? 彼のミラン入りが決まった時は、ミランのロッカールームはそりゃ盛り上がったものさ。ただ、当の本人は少し寂しそうな感じだった。故郷のローマを離れることが、よほど苦しい選択だったんだろう。元々がシャイな性格だから、最初はちょっと取っ付きづらいところがあったよ。親友と呼べる人物は、意外に少ないんじゃないかな。ただ、少し内向的なだけで、素晴らしいヤツであることは確かだ。
プレーヤーとしてのネスタは改めて俺が語るまでもないだろう。何をやらせても完璧。欠点のないセンターバックだよ。ただ一つだけ気になったのは、自分の能力が高すぎるがために、相手の研究を軽視する傾向があったことだな。もちろん、彼も年齢を重ねることでより慎重になっているから、今はその必要性を学んだと思うけどね。
■ピルロ

6年間同僚だった。ピッチ上でのビリーはピルロに最大限の信頼を寄せ、すべてのボールを彼に預けていた。
《レジスタに転向した時かなり注文を付けたよ》
アンドレアは2つの人格を持っている。テレビカメラがいるような場所では、恐ろしく退屈な男だ。相手に失礼にならないギリギリのレベルで、「居心地が悪い」って態度を取る。本人からそう聞いた訳じゃないけど、多分、意図的にやっているんだ。ところが、気の置けない友達や仲間の前になると、すごく陽気になる。ネスタと一緒にいる時はまだいいが、リーノと2人になったらひどいもんだ。アメリカの古い喜劇映画に出てくるコンビみたいに、つまらない冗談を大声で言い続けている。どうだい、そんなアンドレアは想像できないだろう?(笑)
選手としてのアンドレアは、トップ下から中盤の底にポジションを移した時から大きく飛躍した。だけど、コンバートした直後は試合が終わるたびにアンチェロッティから叱責されていたよ。パスカットを狙うタイミングが早すぎて相手にスペースを与え、カウンターを許すことが多かったんだ。トップ下ならただボールに突っ込めばよかったんだろうが、中盤の底となれば基本的にはプレスじゃなくてポジショニングで守る意識が求められる。俺たち最終ラインもかなり注文を付けたよ。さすがの天才も、かなり苦労していたようだ。
■インザーギ

01年から6年間一緒にプレー。“長老たち”と一緒にいることが多いビリーだが、ピッポとは気が合ったようだ。
《信じられないほど周到な準備をしている》
ストライカーとしてのピッポのすごさは誰もが知っているだろう。エリア内でのあの動きと正確なフィニッシュは素晴らしいの一言に尽きる。だから、ここではみんなが知らない、試合以外でピッポがいかに努力しているかについて話そう。俺は長くサッカー界にいて、多くのプロフェッショナルを見てきた。ここは厳しい世界で、どれだけ才能があってもプロフェッショナル精神に欠けるような人間はまず成功できない。当然、模範的な選手を数多く見てきたことになる。だが、ピッポはその中でも一級品だ。あいつ以上に高いプロ意識を持った選手を俺は知らない。
ピッポは信じられないほど周到な準備をして試合に臨む。対戦するDFのことは、何から何まで調べ尽くして頭に入れているよ。長所や短所はもちろん、どんなクセを持っているかまでね。そして時々、チームメートに要求をしてくる。「この選手が俺をマークしている時には、パスを出すタイミングをいつもより早くしてくれ」とか、「このDFは左からの対応に弱いから、僕が右足で持てるようなパスをくれ」とかね。その分析がまた絶妙なんだ。DFの俺にそれだけ言うんだから、ピルロなんかはどれだけ要求されていたことか……(笑)。
(記事提供:CALCiO2002)
続く。