■恐怖という概念がカテナッチョを正当化
60年代から80年代にかけて、最初のファウルは「無料」、すなわちカードが出ないと考えられていた。この暗黙の了解はハードマークを得意とする選手に有利に作用する。当時のチェルシーを支えたロン・ハリスの言葉を借りれば、「弱虫」ほどその餌食になった。激しいタックルの餌食になることを恐れ、相手が接触を避けまくる状況を作れば、試合は勝ったも同然だろう。
もっとも、野蛮ながらも魅力的な時代は長くは続かなかった。実際、90年のイタリアW杯は世界を魅了する要素に欠けていた。FIFAはオフサイドに関するルールを徐々に書き換え、GKがバックパスをキャッチしたらファウルという新たな規則を導入。そして攻撃側に有利なジャッジを促す変更の数々が、時代を変えてしまった。審判が流す場面も少なくなると、当たりの強さで相手を脅かそうとするチームは戦いにくい状況となった。